東京高等裁判所 平成元年(行ケ)106号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
二 取消事由についての判断
1 当事者間に争いのない本願考案の要旨及び成立に争いのない甲第二号証の一(出願当初明細書添付の第1図ないし第4図)及び同号証の二(昭和六〇年八月三一日付意見書に代わる手続補正書添付の第5図)、甲第三号証(昭和六三年六月一日付手続補正書・本願明細書)を総合すると、本願考案は、結束テープによつて野菜や草花等を巻回結束するための結束装置に関する考案であるが、昭和六〇年八月三一日付意見書に代わる手続補正書添付の第5図に記載されたような従来の結束装置においては、ハンドルが結束腕に螺合固定されていたことから、作業環境が変わつた場合にも作業者はハンドルの所定の取付角度に制約を受けた状態で結束作業をしなければならず、作業者が十分に力を加えられないような手の位置とハンドルとの位置関係にあつても、そのまま無理な姿勢で作業を行わなければならなかつたため、作業者にとつて大きな負担となつていたので、ハンドルの取付角度に融通性をもたせて種々の作業環境の下での結束装置の操作性を向上させることを目的として、実用新案登録請求の範囲に記載されたとおり「回転可能にハンドルを軸着するとともに、該ハンドルを適宜角度において固定可能な締結手段を設けた一構成(第一引用例記載のものとの相違点である。)を採択した点に特徴があること並びに右の特徴的な構成を採用したことによつて、種々の作業環境の下での結束装置の操作性を向上させることができ、効率の良く力が加えられる角度で操作することにより適正な力でテープを衝合させて確実な結束が行なえることとなるという(本願明細書一五頁三行ないし八行)所期の効果を得るとともに、梱包や収納時にはハンドルを折り曲げて小さくすることにより梱包する箱を小型化でき、また収納スペースを小さくすることができることや締付ボルトを外してもハンドルは軸着されているため結束腕から外れることがなくハンドルが紛失することもないという付随的な効果を得ていることが認められる。
2 取消事由1について
本願考案と第一引用例記載の結束装置との相違点は、審決認定のとおり第一引用例には相違点とされた「回転可能にハンドルを軸着するとともに、該ハンドルを適宜角度において固定可能な締結手段を設けた」構成についての記載がないことであり、また第二引用例に審決認定のとおりの記載があることは、当事者間に争いがない。
成立に争いのない甲第五号証(実公昭四五―二七一五一号実用新案公報)によれば、第二引用例は、梃棒の振動を防止し、耕うん機に用いても騒音を発しないようにした耕うん機用梃棒付締付ボルトの考案に係る実用新案公報であるが、その考案の詳細な説明欄には、操縦ハンドル3の取付のための構成として審決認定のとおりの記載があり、操縦ハンドル3の取付傾斜角度の調節変更は締付ボルト1を弛めナツト5の菊座6と取付筒7の菊座8との合致位置を加減して、再び締付ボルト1を締付けることにより行う(一欄二九行ないし二欄六行)という取付傾斜角度の調節変更手段、すなわち、「ハンドルを回転可能に軸着するとともに、ハンドルを適宜角度において締結手段により固定する」構成が開示されている(この点は原告も認めるところである。)が、第二引用例においても、結局、耕作地の傾斜度等の作業環境や作業者の身長等に応じて作業者が自然な姿勢で耕うん機の操作ができるようにハンドルの取付角度の調節変更を可能にしたものであることは極めて見やすいところであるから、この取付角度の調節変更の手段も、作業機の操作性を向上させることを目的としている点で本願考案の目的と共通したものと認められる。したがつて、結束装置の操作性を向上させるために「回転可能にハンドルを軸着するとともに、該ハンドルを適宜角度において固定可能な締結手段を設けた」構成とすることは、第二引用例に十分示唆されているものと認められる。この点、原告は、本願考案と第二引用例記載のものにおけるハンドルの回転及び取付角度調節のための構成が具体的な点で異なる旨主張するが、前記のように第二引用例には「ハンドルを回転可能に軸着するとともに、ハンドルを適宜角度において締結手段により固定する」構成が示されていることは原告も認めるところであり、かつ本願考案において設けられる「ハンドルを適宜角度において固定可能な締結手段」に特段の限定も付されていないのであるから、結局、本願考案と第二引用例のハンドルの回転及び取付角度調節に関する構成に差はないものということができる。更に、原告は、第二引用例の耕うん機と本願考案に係る結束装置とは製造業者や販売業者を異にするうえに、目的、構成及び効果も著しく相違するものであるから、第二引用例に記載されている前記のハンドル取付角度の調節変更手段を結束装置の構成の一部に転用することは当業者において容易に想到し得るものではない旨主張する。しかしながら、前掲甲第三号証によれば、本願考案に係る結束装置の適用対象の一つとして本願明細書には「農産物の結束」が挙げられているから(二頁一二行ないし一三行)、本願考案と第二引用例の耕うん機はその利用分野を農業とする点において共通性を有しており、しかも、前記当事者間に争いのない審決の理由の要点における説示によれば、審決は同じ農業分野において利用される耕うん機において、ハンドルを適宜角度において締付ボルトにより固定する構成が公知であることを示すために第二引用例を引用したものであつて、第二引用例に記載された梃棒付締付ボルト自体の目的、効果について引用したものでないことは明らかである。そして、成立に争いのない乙第一号証(煙草中耕鍬に係る昭和一一年実用新案出願公告第一〇八三八号)、乙第二号証(鍬に係る昭和一一年実用新案出願公告第一四七九七号)、乙第三号証(迂回遠隔する摘果鋏に係る実開昭五〇―一二五三五六号公報)及び乙第四号証(ブラシホルダーに係る特公昭五二―三七七〇九号公報)を総合すると、ハンドルの取付角度に融通性をもたせて操作性を向上させるという技術的思想は種々の機器ないし装置において広く採用されており、そのためにハンドルを回転可能にしたうえ、適宜角度に調節した後締結手段によつて固定するという技術手段が広く用いられていることが認められるから、第二引用例に開示された前記認定のようなハンドルの取付角度の調節変更手段は操作性の向上という目的に寄与し得る汎用性のある技術手段というべきであり、これを操作性の向上という目的のために結束装置の一部に適用するについて格別の困難性があるとは認められない。したがつて、耕うん機と結束装置との製造業者や販売業者など技術分野の違いの観点からする原告の主張も採用できない。
右のとおりであるから、ハンドルを結束腕に回転可能に軸着するとともに、ハンドルを適宜角度において固定可能な締付手段を設けることは当業者が必要に応じて適宜なし得ることであるとした審決の判断には何ら誤りはない。
3 取消事由2について
本願考案の効果のうち、種々の作業環境の下での結束装置の操作性を向上させることができ、効率の良く力が加えられる角度で操作することにより適正な力でテープを衝合させて確実な結束が行なえるという事項は、「回転可能にハンドルを軸着するとともに、該ハンドルを適宜角度において固定可能な締結手段を設けた」構成を適用したことによる当然の効果であり、また結束装置の梱包や収納時にはハンドルを折り曲げて小さくすることにより梱包する箱を小型化でき、また収納スペースを小さくすることができることや締付ボルトを外してもハンドルは軸着されているため結束腕から外れることがなくハンドルが紛失することもないという付随的な効果も、ハンドルを結束腕に回転可能に軸着するとともに、ハンドルの取付角度を変更できることとしたことから、当然に予測される事項にすぎないから、これらのことを格別の効果とみることはできない。したがつて、本願考案の奏する効果の顕著性をいう原告の主張は採用の限りでない。
三 以上のとおりであるから、審決に認定判断を誤つた違法があることを理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、失当としてこれを棄却することとする。
〔編注〕本願考案の要旨は左のとおりである。
結束腕の基部を基台に枢着し、該結束腕を起倒動することにより結束テープを被結束物に巻回結束する結束装置において、前記基台に設けた圧着台と衝合する前記結束腕の先端部近傍に回転可能にハンドルを軸着するとともに、該ハンドルを適宜角度において固定可能な締結手段を設けたことを特徴とする結束装置。